1. Kids stage

    開演時刻を迎え続々とキッズステージである神楽坂モノガタリに人が集まってくる。
    ここキッズステージは、弾き語りのアーティスト6組、そして様々なジャンルのクリエイターたち8組が、多様なスタイルで表現し合うステージである。

    17時。オープニングアクトであり、このイベントの主催バンド「Sunday is Wednesday」のVo.越野和馬が満面の笑みで「僕のライブが始まるよ」と歌い始める。

    これからのドキドキやワクワクを詰め込んだようなメロディに誘われたようにどんどん人で埋め尽くされていくフロア。同フロアにある出店ブースにも多くの人が集まる。
    「遊園地みたいでしょ、ここ。」
    誇らしげに話す彼の言う通り、ブックカフェであったはずが様々なアツい想いを巡らせたクリエイターたちによってあっという間に思い思いに楽しめる遊園地のような空間へと変化していた。
    3曲目「東京の夜、東京の夏」のイントロで静まり注目をステージへ向ける観客。気がつくと会場はたくさんの人で溢れている。
    最後の曲が始まると自然と手拍子が。「わたがし」「カブトムシ」「風鈴」など、夏を象徴する言葉が散りばめられた曲で夏ドキはスタート。
    これからのハッピーを予期させる演奏にワクワクが止まらなかった。

    キッズステージ最初のアーティストは丸山永司

    一見ゆったりとした雰囲気を纏った丸山だが、歌い出すと力の込められた歌声に一気に引き込まれる観客。
    ストーリー性のある儚い歌詞、演奏がたくさんの本が並ぶここ神楽坂モノガタリにぴったりだ。
    彼の演奏は聴いていると心がふわふわ浮遊してどこかへ連れていってくれる、そんな気分になる。観客たちもしっかりと曲の世界へ入り込んでいるようだった。
    そして各ブースがそれぞれ盛り上がりを見せる中、彼の演奏が空間を彩っていく。

    会場がすっかり温まり、キッズステージの空間を自由に楽しむ来場者の様子が見られるようになった頃、ぐズリグリズリーのライブがスタートした。

    弾き語りが主に出演する、このキッズステージ唯一のアコースティック編成での出演となるぐズリグリズリー。
    Ed Sheeranの「Thinking Out Loud」。原曲は美しいラブソングだが、アレンジによってどこか浜辺に沈む夕日の風景を連想させる。
    アコースティック編成ならではの空気感に恍惚の表情を浮かべる観客たち。
    「夏の曲です!」と紹介された2曲目の「アオ」。「青」春を感じさせるような言葉やサビに響く高音の爽やかさがまさに夏にぴったりな曲だった。
    MCではイベント名を間違い、会場を笑いに包んだぐズリグリズリー。笑顔とポップなサウンドが溢れる空間だった。

    キッズステージ最大の特徴は、弾き語りステージと、クリエイター8組の出店ブースが共存し、あちらこちらで表現と来場者の笑顔が咲いていること。ここでクリエイターたちのブースに目を向けたい。

    主にアクセサリー販売を行う現役美大生の大西裕菜

    2席という小さなスペースを装飾した瓶やお花、クリエイター自身が好きなパンダのぬいぐるみなどで自らの世界観へ染め上げる。
    様々な作品が販売されているが、それぞれにテーマや想いが込められており、その中でも「フレームブローチ」は「いつも心に額縁を」と謳い、アートをもっと身近なものにしたいという想いが作品をとおして感じられる。全て手作りで想いの込もった彼女の作品はどれも暖かい。

    ココナツステージの撮影も担当している写真家、東海林ひろ

    彼女の作品の中で特に惹かれた「カクウCDジャケット」は、中のCDが入っておらず、ジャケットが彼女の撮影をした写真になっている。
    1枚1枚異なる写真のジャケットのCDケースが置いてあり、いわゆる「ジャケ買い」のような感覚で楽しめる。「つぎの、その次の夢」や、「ichinichi no owarini」など、写真に沿ったタイトルのあるものもあり、言葉では表現できない自分の感性で感じる良さが詰め込まれた作品だ。

    水彩や色鉛筆などを使い、優しいイラストを描くNakai Natsumi

    彼女は今回、作品の展示だけではなく、外看板のイラストも手がけた。
    学生時代からの作品や、円盤に糸のついた、回すと立体に見える工夫をこらした作品まで、多くのイラストが展示されていた。そして、まるで本物かのような繊細なタッチの絵は今にも動き出しそうなほどだった。彼女のイラストは命を吹き込まれたように生き生きとして美しい。

    続いて、ヘアアレンジブースを構えるFēn hair ici

    終演までFēnのブースを訪れる人の波は途絶えることはなかった。
    会話を弾ませながら、次々と髪の毛がアレンジされ来場者が笑顔になっていく様子はアーティスティックでもある。時折、夏ドキの出演者が訪れる場面もあり、アレンジ後にそれぞれのステージで最高のパフォーマンスを行なっていた。

    ヘアアレンジも行いながら、自身の作品も展示していたヘアアーティスト、フクタニナホ

    三つ編みなどにされた髪の毛を使ったアクセサリーの展示を行なっていた。
    一つ一つの作品が髪の毛とは思えないほどポップで可愛らしくて、思わず手に取って眺めたくなるものだった。

    こちらも大盛況だった似顔絵ブースで黙々と描いていた、旅する漫画家シミ

    アメリカンでポップなタッチのイラストの似顔絵を仕上げる。
    カップルや友人3人一緒に描いてほしいという要望に、時間がかかりすぎてしまわないか不安だと言いながら、真剣に意気揚々と筆を進める。出来上がった作品を見て大喜びする来場者の姿が印象的だった。

    そして雑貨クリエイターのtant pis*

    「私を私たらしめるものたち」と題して、小さい頃の思い出の食べ物などのイラストにエピソードを添えたカードの展示、カラフルな糸で編まれたコースターの販売や展示を行なっていた。
    彼女たちの作品を多くの人の目に触れる場所に展示することは今回が初めて。作品について来場者と話す姿から高揚感が伝わってきた。

    夕暮れのオレンジが辺りを照らす頃、a-chanの繊細なピアノの音色が響き渡る。

    感情の込もった演奏と心に染みるエネルギッシュな歌声に聴き入ってしまう。
    2曲目の「いじめ」では「人の悲しみは残るもの」「人は一人じゃ生きられない」「誰かの支えで生きられる」という切実な想いが込められた言葉が胸に刺さり考えさせられる。
    a-chanの透明感溢れる歌声とストレートな歌詞が夕暮れと混ざり合い、絶妙な切なさが漂うフロア。観客たちも彼女の曲から伝わる強いメッセージに圧倒されていた。
    彼女のパワフルな演奏はこの場にいた多くの人たちを励まし勇気を与えただろう。

    続いて、不思議な空気感を漂わせ、カエル(弾き語り)がキッズステージへ。

    弾き語りならではの自由なスピード感と一度聴くと耳に残る歌声で、一瞬で観客たちを独自の世界へ引き込む。
    曲ごとに表情が変化する演奏に目が離せない。フロアにもどんどん人が集まり、気がつくと多くの人がステージへと目を向けていた。
    穏やかなメロディの曲や、感情いっぱいに叫び歌う曲など振り幅の大きい彼の楽曲には時間を忘れて集中してしまった。

    いつの間にかすっかり陽も沈み、会場の明るい光と神楽坂の商店街に連なる提灯の灯りが賑やかに浮かび上がっていた。

    いよいよキッズステージ最後のアーティスト。トリを務めるのはフエキトオル

    ギターの音色や歌声から滲み出る優しさ。一音一音丁寧に音を奏でるフエキの演奏は切なささえ感じられる。
    フロアに散らばる各クリエイターたちも最後の賑わいを見せる中、終わってしまうのが惜しいとばかりに注目が集まっていく。
    5曲目の「遺影」は、写真家東海林ひろの遺影をテーマにした個展を元に作られた曲だ。彼の儚さ、繊細さがよく感じられ、キッズステージの終わりを優しく鮮やかに彩っていく。最後は「追憶と空の色」で終了。

    (写真:鈴木涼)
    (文:藤田亜美)