#5 大間知賢哉×越野和馬対談 ー音劇演楽場の完成までー

2020.07.01

「音劇演楽場」(読み:ミュージャム)は、今年の2月18日に下北沢ReGで開催された企画です。4組の弾き語りのアーティストのライブに加え、4人の役者による演劇が繰り広げられました。脚本は、各アーティストの楽曲に着想を得て書かれた完全オリジナル作品。着席スタイルで全4作品・計2時間を楽しむ特別な一夜となりました。
その企画者である、役者・大間知賢哉さんと、ナツドキ主催者であり、バンド・Agniのフロントマンである越野和馬による、ミュージャムについての対談の第2弾です。

-脚本家の方とのエピソードや、ミュージャムが出来上がるまでの具体的なプロセスについて教えてください。

大間知:

こっしーさんとのやり取りの中で、「いけんじゃねーか」っていう手応えはあったんだけど、その先どう企画を立てて進めるかっていうところは、難しさがあったかな。まぁ何事も、始めるのに大変さは付きものだと思うんですけど… 音楽と演劇の掛け合わせ方をどうするかっていうところを特に議論したなって思っていて。
例えば、物語先行で、物語に合った楽曲があてられていくってう構造で作るっていう話があったり。結果そうはなってないんですけど。


越野:

うんうん。


大間知:

「あ、面白そうだね、その掛け合わせ」っていう感触はあるんだけど、「じゃあどうするの?」ってなったときにそこから踏み込む難しさがあって。とりあえず、脚本家の助川さんに会って相談してみて、彼女の中から生まれてくる物語があれば、その物語をお借りしてそこから作っていこうかっていう心持ちだったんですよね。
で、まず彼女に会いに行ったんです。「音楽と演劇の企画を考えていて、脚本をお願いしたいです」って彼女に持ちかけてみたんです。(助川さんは)すごい真剣に聞いてくれて、興味を持ってくれたんですけど、ただ、「ゼロベースで私が物語を作るのは違う気がする」って彼女が言ってたんですね。彼女は真剣に受け止めてくれてたからこそだと思うんですけど、せっかくコラボレーションするのであれば、関わってくれる人たちに紐づいたものを書きたいってかんじだったんですよね。だから物語ありきじゃなくって、ミュージシャン…関わってくださる人の方からいただいたもので本を書いたらどうかという流れで、楽曲を1曲、課題曲として預かって脚本家に渡すっていう方向になりました。企画の中身が決まるまではこういう経緯でしたね。


越野:

回遊型も考えてましたよね。


大間知:

そうそうそう!


越野:

僕はまだあれ(回遊型も)面白いと思ってるけどね(笑)


-回遊型…?

越野:

ReGの1階と地下を行き来する形っていう。
役者の人たちとお客さんでひとつのチームになってて…役者さんたちが、お客さんを演じていて、1階のステージのライブを見る、次こういう人たちのライブだって説明して、今度は地下のステージのライブを見に行くって、お客さんと一緒に歩きながら見るスタイルだね。
僕当時、ディズニーランドをやっぱりすごいエンタメだなって思って、ディズニーランドの勉強をすごいしてて。ジャングルクルーズとか、もう演者さんがいっぱいいるかんじ。スタッフ全員が演じていて、そのスタイルってやっぱ良いなって思ったんですよ。いつかナツドキもそのスタイルをやりたいなって思ってるんですよね。


大間知:

良いですね、ほんと面白い。
俳優もだんだん、そういう仕事も増えてるんで。水先案内人みたいなことをして、観客とつながる役割を担うっていうのは最近結構ありますね。体験型のエンターテイメントは俳優さんと相性がやっぱり良くって。良いですね!


越野:

それやりたいなーって思ってたんですよね!


大間知:

アリですね。今後も考えていけたらなって思いました。
回遊型でやるっていうのも、(会場の)ReGの構造を生かした見せ方で、それやっぱりすごい強いっていうか…必然性っていうか。回遊型もGOできるなってかんじだったんですけど、やっぱり脚本家との打ち合わせのエピソードが僕の中で大きなポイントになって。大事なのは、企画に関わる人たちにとってどうなのか、コラボレーションする意味合いって何なのかっていう問いかけにグッときたところはありましたね。だから今回は、いきなりフィクションを被せるのではなく、関わる人たちに紐づいた物語を作っていくところから始めようってなりましたね。



-ミュージャム当日の感想を教えてください。

越野:

そうだなぁ…大変だったね(笑)


大間知:

そうですね(笑)本当にありがとうございました。


越野:

(企画に携わる)いろんな人に理解してもらうためには、やっぱり伝えていく必要があるなとは思ったけど、モノ自体は、なんかシンプルに「これだ!」って思った。


大間知:

大変だってことは付きものだし、難しさは初めてだから出てくるものでもあるなってかんじなんですけど…印象的だったことは、僕は役者さんを稽古場で見てきたのもあるかもしれないんですけど、当日のパフォーマンスが稽古の時より圧倒的に良かったんですよね。
ミュージシャンの人たちも、あの日限りの、いつもとは違った感覚を持ってやっていたんじゃないかなと思っていて。
お互いに「見る・見られる」っていう時間があって、自分がパフォーマンスする前に、芝居を見たり他の人のライブを見て、受け取ったことが表現に現れていた気がするっていうか…。


越野:

うん!


大間知:

そこは結構…ある意味狙っていたところではあるんですけど、その「循環」っていうか。
他の表現者のエネルギーみたいなものに触れて、そこから触発される、感化されたものがパフォーマンスに滲み出ちゃうみたいな。


越野:

まさにそう。


大間知:

本人の意思じゃなくってね、意思から離れた無意識下で、溢れるんですよね、ああいうのってね。そこを僕は結構信じてるし、人間の力だと思うんですよね。
これって「ジャム」「コラボすること」っていうところと関係するかもしれないんですけど、セッションとかって、ある程度の枠組みの中で進行していくけど、そこからちょっと外れることとか、滲み出るものにハッとする、感動がある。
今回、あぁ良かったなって思ったのはそういうところですね。


越野:

緊張感がありましたね。


大間知:

そういうことなんですよね。


越野:

「戦い」っていうか…。ナツドキ2020でやろうとしていたこともそうなんだけど、ジャンル関係なく平等に、せーのでやりたいんですよね、戦いを。
今までやっぱり、大間知さんがライブハウスで(演劇を)やってくれてたり、知ってる人も多いから戦えるっていう部分もあるけど…でも急に役者さんがいきなり入ってきても戦えないですよね、お客さんのテンション的にも、びっくりしちゃうっていうか。
そういう意味でも(ミュージャム当日は)ちゃんと戦えてた。


大間知:

うん、そこはやっぱり、デザインしていくってことなんだなって思いました。


越野:

そうそう、ほんとにそう。


大間知:

当日のパフォーマンスが本番なんだけど、僕の中で「プロジェクト」として、出会ったところから始まっていて、あの本番がゴールっていう感覚。物語の最終章はライブなんだけど、そのプロセスも含めて始まっていて、どう期待を高めていって、みんなの中で醸成して、土俵に乗れるか…作品づくりじゃない、場に臨むまでの作り方も神経使ってたんだなって思いました。
みんなの土俵をどうやって作るかっていうところはこれからも課題、そこが面白いなって気がします。


越野:

そうですね。
シンプルに「コラボ」っていうけど、表現者どうしがちゃんとリスペクトできている環境で、負けたくないって思える環境だったなって思うから、それがすごい良かったですよね。


大間知:

リスペクトね、ほんとにまさにそうだな。そこを本当に大事にしてたなって思いますね。
当日やるのは自分のパフォーマンスなんだけど、そのパフォーマンスって、自分のためである自己表現に留まらないっていうか…作品は、元はミュージシャンの大切な曲であり、それを脚本家が言葉にしたもので。で、自分がそれを演じるんだ、お客さんに手渡すんだっていう、すべての想いが伝播していって、パフォーマンスひとつ取ってみても、自分だけの勢いでやるものじゃないんだなって。


ミュージャム当日のパフォーマンスは、思えばステージというより、リングが目の前にあって、そこでの熱き戦いを見ているような感覚だったように感じます。表現者たちが放出していたエネルギーがあったからこそ、深く感動したのだと思います。
「コラボレーション」は、ミュージャムの鍵でもあります。最後に、他者とコラボすることについて感じていることを聞きました。